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百日咳
百日咳は、「ひゃくにちぜき」と読みます。病気の名前です。百日咳と聞いてみなさんはどんな印象をもつでしょうか?
セキが百日間続くの?セキが止まらなくて苦しそう。熱もでるのかなぁ。
でも多くのお友達は、よく知らないなぁと思うでしょう。
まず、具体的な例をあげてお話ししましょう。
ぼくの名前はたろう、サッカーが大好きな○○小学校2年生です。
1か月前に妹のはなこちゃんが生まれてお兄ちゃんになりました。
1週間くらい前からセキが出ています。熱もないし、元気にサッカーもできるけど。
もともとぜんそくが出るときがあるので、病院に行ってぜんそくのおクスリをもらいました。ちゃんと飲んでるけどセキがとまりません。特に夜のセキがひどく昨日はせき込んで吐いちゃった。
お母さんが心配してまた病院に行ったら百日咳かもって言われたよ。インフルエンザみたいな鼻の検査をして前とちがうクスリをもらいました。新しいクスリを飲んでぼくはだんだん良くなってきたけど、妹のはなこちゃんがセキが出るようになっちゃった。夜になるとセキが止まらず何回も連続してせき込んで、息を吸うとピューと笛が鳴るような音がしてる。だんだん元気がなくなってミルクも飲めなくなっちゃったから病院に行ったら入院しちゃったよ。早くなおるといいなぁ。
これが最も心配する代表的なケースです。
百日咳は、百日咳菌という細菌による感染症です。ウイルスによるいわゆる風邪ではありません。
周りの人にうつす力=感染力が大変強く学校も出席停止になってしまう病気です。感染力の強さを示す値に、基本再生産数というのがあります。百日咳は16~21くらいとされていて、とても強い麻疹と同じくらいとされています。インフルエンザや新型コロナウイルスが2~3くらいとされていますから、百日咳は感染力がとても強い病気なのです。出席停止期間は、特有のセキが消失するか、または、適正な抗生剤を5日間飲むまでと決まっています。
現在では乳幼児期に四種混合ワクチンによる予防接種を行っています。
ワクチンを接種する前の乳児がかかると、はなこちゃんのようにセキが次第にひどくなります。5~10回くらいの連続的なセキがでて、大きく息を吸ったときに笛がなるような音が出るのが特徴的です。呼吸状態の悪化が著明で、活気もなくなり、入院することも多く、最悪の場合、死に至ることもあります。
予防接種をしているとこんなにひどくなることはないのですが、最近小中学生の間で百日咳がひそかに流行しています。
乳児期に接種する四種混合ワクチンの効果がだんだんなくなってしまっているからです。最近の報告では5歳児の百日咳菌に対する抗体保有率は50%をきるくらいと出ています。ですから、小学生や中学生の間でひそかに流行してしまうのです。
小中学生の百日咳の特徴は、長引くセキです。発熱はないことも多く、比較的元気で全身状態はあまり悪くならないことも多いです。ただ、適切な治療を受けないとセキがだんだんひどくなり、特に夜間のセキ込みで吐いてしまうこともしばしばあります。喘息の既往がある子がかかることも多く、喘息と間違ってしまうこともありますが、一般的な喘息のクスリではあまりよくなりません。
診断は、LAMP法という百日咳菌のDNA検査が良いです。培養分離やPCR検査、抗体の血液検査もありますが、感度や手間などトータルで考えるとLAMP法が最も優れています。
治療は、百日咳に効果が高いタイプの抗生剤を飲みます。他のタイプの抗生剤では効果が低いので、きちんと診断して、きちんと効く抗生剤を飲む必要性があるのです。抗生剤を飲み始めると1~2週後くらいにはセキがかなり少なくなるので、百日咳はきちんとした治療で治る病気です。
これらのことは、2017年に小児呼吸器感染症診療ガイドラインが決まって、そこに記載されています。
小中学生の抗体の値が下がってしまっているので、対策が必要と考えられています。
抗体の値を上げる方法は、予防接種すなわちワクチンを接種する方法です。
将来的に予防接種のシステムが変更になる可能性がありますが、今すぐできることもあります。
まずは、小学校に入学する頃、ワクチンを接種する方法です。もう一つは、11~12歳で接種する二種混合ワクチンを百日咳が含まれている三種混合ワクチンに変更する方法です。いずれも任意接種となり費用がかかりますが、有効性は高い方法です。
医師の立場から社会的にみると、乳児が百日咳にかかることが最も深刻な問題です。ワクチン接種が済んでいない乳児がかかると命にかかわることもある病気なので、出産予定があるご家庭では、小中学生のお兄ちゃんお姉ちゃんの予防接種を検討していただきたいと思います。かかりつけの医師に相談してみてください。ぜひ、生まれたばかりのお子さんの命を守りましょう。
やすだこどもクリニック・南大谷小学校 内科校医 保田 由喜治 先生
(「学校保健」2020年10月16日号より転載)